私が約2年前に初めてパニック症の発作に見舞われたときに自分自身の身体に何が起こったのか、医師の自分でもさっぱりわかりませんでした。研修医の頃、救急外来にたまにパニック発作を起こした方が運ばれてきました。このときの自分は患者さんに起こっている症状について、知識としては知っていましたが、共感してあげることができませんでした。でも今なら、それは『限界を超えた不安や恐怖によって扁桃体が過剰興奮を起こし、アドレナリンが過剰に分泌され、それが交感神経の異常興奮を引き起こし、様々な不快な症状をもたらした』のだと説明できます。
敵(不安障害)と戦うためには、まず敵のことをよく知る必要があると思いますが、その際にとても役に立ったのが、今回紹介するクレア・ウィークス(1903-1990)著 不安のメカニズム ストレス・不安・恐怖を克服し人生を取り戻すためのセルフヘルプガイドです。不安障害に悩む人は、必ず読んでいただきたい一冊のひとつです。
不安障害で認められる症状は大きく3つに分けられれます。
ポイント
1 交感神経の異常興奮によってもたらされる不快な症状
2 神経の過敏や疲労によってもたらされる随伴症状
3 恐怖に対する恐怖
交感神経の異常興奮によってもたらされる不快な症状について
通常であれば「不安」は生きていくために必要な感情であり、身体的な症状は伴わないか、一時的なもので改善します。それが不安障害になると、パニック症や全般性不安障害など急性や慢性、程度の差などはあると思いますが、ストレスなどによって脳にある扁桃体が過剰な興奮を引き起こして、アドレナリンが過剰分泌されてしまうのです。別に身体に何か異常があるわけではなく、脳が誤作動を起こしてアドレナリンが過剰分泌されただけなのです。ただそれだけなのですが、それが多くの人を苦しませる原因になります。
交感神経の異常興奮によってもたらされる症状は以下のようなものがあります。
呼吸困難(息ができなくなって死ぬのではないかというほどの感覚)
心臓の鼓動が速くなる、不整脈、心臓のあたりの痛み、心臓が震えるような感覚(ドキドキして心臓が止まるのではないかというほどの感覚)
胃がムカムカする感じ、吐き気
のどのつかえ 「のどがいつも圧迫されているような感じ」ヒステリー球
手のひらの発汗、手足がしびれる感じ
めまい、立ちくらみ
身体の震えや筋肉の突然のぴくつき
目のかすみ、まぶしく感じる
聴覚過敏、音が大きく聞こえる
頻尿、下痢
じっとしていられない(焦燥感) など
このような交感神経の異常興奮が、発作的に起こるのがパニック症であり、慢性的に続くのが不安神経症とも考えられます。また、このような交感神経の異常興奮は、神経が疲弊していることが原因であり、また過敏状態が続くことで、それによっても症状が起こります。「恐怖→アドレナリン分泌→恐怖」の雪だるま式のサイクルに陥ってしまいます。このような状態が続けば、最初は神経の過敏だけだったのに、どんどん悪くなり、些細なことでパニック発作が日に何回も起こるようになったり、神経の疲労から一時も休まる時間がないように感じられます。それが2番目の神経の過敏や疲労によってもたらされる随伴症状です。
神経の過敏や疲労によってもたらされる随伴症状
不安感が不安感を呼ぶ 「何度も何度も同じことを繰り返し心配する」「一時も心が安まらない」
頭重感「頭が重い」「頭がもやもやする」「頭に霧がかかったよう」
自己憐憫、挫折感、罪悪感に苦しむ
抑うつ感「生きている意味がない」「ひどく年を取ったようだ」
不眠(入眠困難、早朝覚醒、中途覚醒)
無気力
離人感 「自分が自分でないような感覚」
集中力の低下
この様な不快な症状は人によって、あるいはその時々によって程度の差はありますが、ほとんど一日中つきまとうことが多いです。確かに一時的によくなることがありますが、ちょっと休んで起きたらまた不快な症状が始まるといったような具合です。大切なことは、 このような症状を理解することが緊張をいくらか和らげてくれることにつながります。このような交感神経の異常興奮によってもたらされる不快な症状とそれに伴う症状は、とても激烈であるため、やがて恐怖に対する恐怖が生じるようになり、生活に支障を来すようになります。恐怖に対する恐怖には、以下のようなものがあります。
恐怖に対する恐怖
予期不安 また発作が起こるのでないかと感じてしまう
広場恐怖 発作が起こるのが不安になり、外出先や自分が逃げられなくなるのでないかと感じる特定の場面や場所(会議、映画館や満員電車、飛行機、エレベーターなど)を避けるようになる
繰り返しになりますが、大切なことはなぜこのような症状が起こっているのか理解することが、まず治療の第一歩だと思います。自分自身もまだ治療中の身ですが、同じ病気で苦しんでいる人の一助になればと思います。